八つ当たり

友人の藍河貴弓さんより頂いた27巻あたりのゴンの心境のSSです。
ちょっと前に掲載許可を頂いたのでイラスト描いてみました。
本当、この辺りの話は泣けてくる・・・。ううっ
藍河さん、いつもありがとー！！！

SSは「つづきはこちら」にて↓




 

「ふざけるな!!! 何を待つっていうんだ!!!」

急にやり場を失った怒りは、もうしまう事さえ出来ず、ただ力の限り怒鳴りつけるしかなかった。

「立て!!!!
外へ出ろ!!!」

ずっと我慢してたんだ。
今目の前にいるんだ。
１秒だって待ちたくない。

引きずってでも外に出すつもりで、オレは一歩踏み出した。

「何でも!! 何でも言うことを聞くから!!」

その時初めて、そいつは大きな声を上げた。

それが挑発の言葉であったら、どんなに楽かと思った…

でも奴の発した言葉は違う。
必死の訴えが、オレの足を止める…
その後の言葉は、それこそ本当に予想さえしてなくて、意味が分からなくて、オレの中で何かが崩れていくような感覚がした中、さっきとはまた違う怒りが沸き上がった。

「タスケナクチャ………って
救けたいってこと？」

沸き上がる怒りと言う感情を今すぐぶつけたい相手が目の前にいて、けど「救けたい」とか「待て」とか言うし、キルアは奴を信じるみたいに「待とう」って言って…
何が何だか分からなくなってきて、もう自分が何を言ってるかさえも分からなくなって、でも止められなかった。

「こんな奴の言うこと信じるのか!!?
信じられるわけないだろ!!!」

そう叫んだ瞬間、相手の身体から嫌な音がした。


 

「望むならば…右腕も
それでも足りなければ…両の脚も……!!!」

左腕ヲ自分デ折ッタ…？

「治療が終わった後でボクが…妙な気を起こすかも知れないと思うならば

治療に…支障が出ない範囲で
ボクを壊してくれて構わない…!」

その目は真剣で嘘がなかった…
だからこそ理解出来なかった…したくなかった…

「頼むから彼女を…救けさせてくれ…!!」


奴の言葉が、表情が、全てが…必死だった…
それはカイトを治したい、治さなきゃ…そう強く願った自分と重なって、本当に本当にどうしたらいいか分からなくて、自分の両腕を床に叩きつけた…

ずるいずるいずるい…!!!!!

「ずるい!!!
ずるいぞチクショウ!!!」

意志を持たない人形とされたカイトの姿が、瞼の裏側に焼き付いて消えない…

「なんでそいつばっかり!!!
カイトにはあんな非道いことしたくせに!!!」

何でだよ。
何でなんだよ。
何でカイトにはあんなことして、そいつは救けたいなんだよ。

「なんでだよっ」

理不尽で、ずるくて、でも我慢しなきゃいけなくて…でも、でも…

叫ばずにはいられなかった。
殺してやりたいって思った。
自分を止めるつもりもなかった。


我慢スル…？
何故？
何ノ為二？誰ノ為二？


「ふざけんな…………っ」

右手をギュッと握った。

「最初は」

その手に念を込めようとして



「ゴン!!」



キルアの止める声がオレを呼んだ。

「そいつ殺したら
カイトは元に戻らねーぞ」

キルアの声はすごく冷静だった。




何デ、キルアハ冷静デイラレルノ？


頭の中でそう呟く自分がいた。


やめろよ。
キルアは関係ないじゃないか。


…関係ナイ…？
ソウカ、ダカラナンダ…


「キルアは……いいよね」


頭では止めようとしてるのに、唇は勝手に動いた。


「冷静でいられて」


やめなきゃ。
言っちゃダメだ。
キルアは悪くないのに…
キルアの言葉は正しいのに…


「関係
　　ないから」



こんな言葉、言いたい訳じゃなかった…
違うんだ。キルアじゃないんだよ、悪いのは……


自分の身体が冷たく感じた。
キルアの方を一度も見れなかった。
本心なんかじゃないのに、口にしてしまった自分が信じられなくて混乱してく。


「てめーがテンパッてるから言ってやってんだろうが
自分で最初に言ったの忘れたのかよ」


あんなこと言ったのに…ほんの数秒沈黙があっただけで、キルアの声は変わらなかった…

「カイトを取り戻すんだろ!!
しっかりしろよてめェ!!!」

カイトの名前を聞いて、オレの中で沸き上がった怒りはほんの僅かではあるけど落ち着きだした。

そう。カイトを取り戻す為なんだ。
カイトが治れば…それでいいんだ…

「ああ

もう
大丈夫…」

カイトを元に戻す。

「時間は？
どれだけ待てばいい？」


その目的はもう、見失ったりしない。



end